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北朝鮮には国営の朝鮮中央通信、朝鮮中央テレビ以外にも様々なメディアが存在する。しかし、コンテンツはほとんどが金正恩党委員長や朝鮮労働党の政策の宣伝で埋め尽くされ、事件や事故、生活情報が伝えられることはまずない。

そんなメディア環境で暮らしている北朝鮮の人々は、口コミで情報を得る。何かが起きると、行商人によって全国津々浦々にあっという間に情報がもたらされるのだが、その特性上、話が盛られて伝わることもしばしばだ。そのせいで、国家が苦しい立場に追いやられる場合もある。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、道内では複数の機関、企業所の幹部が、朝の会議の時に「6月から配給が一部再開されるようだ」との話をしたという噂が立っている。

それを耳にした市民は、配給を心待ちにしており、南北関係改善への期待と未来への希望が重なって、街はとてもポジティブな雰囲気に包まれているという。

当初、噂には「誰が配給をくれるのか」という説明はなかったのに、話が広がるにつれ「南朝鮮(韓国)から援助物資が入る」との尾ヒレが付くようになった。「配給をするのはわが国だ」という話にならないのは、今まで繰り返し祖国から期待を裏切られてきたからだ。

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そもそも北朝鮮は、世界でも類を見ない配給依存国家だった。食料品、生活必需品、住宅に至るまで、ありとあらゆるものが無料または非常に安価で国から配給されていた。ところが、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」を前後して、配給がストップしてしまった。

配給に頼らない生き方を知らない人々は、次から次へと餓死していった。多くの労働者が殺された「黄海製鉄所の虐殺」もそのような状況で発生した。

(参考記事:抗議する労働者を戦車で轢殺…北朝鮮「黄海製鉄所の虐殺」

それから今に至るまで、優遇されている一部の地域や機関、あるいは国家的な祝日を除き、配給は行われなくなった。それでも、配給に期待する人々の心理は根強く残っている。

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一部では今回の噂について、そのような心理を利用して、当局が市民の「ガス抜き」をしようとしたのではないかと見る向きもある。

「配給の噂は、個人耕作地の没収と関連付けられている可能性があると見ている人もいる。土地の没収は激しい反発を呼ぶことを当局はよくわかっているため、このような噂をあえて流したのではないか」(情報筋)

北朝鮮当局は、山に緑を取り戻すための植林事業を行っているが、配給が得られなくなった人々が生き抜くために開墾した畑を奪うという強引なやり方が、強い反発を招いている。

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もし、土地が没収されるのに配給がなされなければ、政府に対する批判的な世論が高まるのは火を見るより明らかだ。

「(金正恩氏の)樹林化・庭園化(植林事業)の掛け声のもと、苦労して開墾した土地が奪われているのに、人々が黙っているわけがないだろう。むしろ『根本的に食糧問題を解決せよ』との声が高まるはずだ」(情報筋)

実際に、配給を巡って「期待の暴走」が起きることがしばしばあり、これが当局にとってかなりの心理的負担になっているようだ。

2016年5月の朝鮮労働党第7回大会に際しては、「全国民に45インチの高級液晶テレビなどの高級家電が配られる」という荒唐無稽な噂が立ってしまった。配給しなければ強い不満が出ることが必至であるため、当局は党大会の参加者に液晶テレビを配った。それでも、対象外となった一般庶民からは強い不満の声が上がった。

配ったら配ったで、中身にケチがつき、金正恩氏のありがたみが伝わるどころか、むしろ逆効果となることもある。2015年の太陽節に子どもたちに配られたお菓子は、評判が散々で、市場で売り払う人が続出。当局が「元帥様(金正恩氏)からのありがたい贈り物を売り払うのは政治犯罪」だとして捜査に乗り出す騒ぎとなった。

このような「暴走」の根本原因は、政府が国民に対して政策の中身を明らかにせず、メディアが必要な情報を提供しないことにある。しかし、これまで国民に何も知らせないことで統制を保ってきた金正恩体制が、そのことに気づく日はしばらく来ないだろう。