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トランプ米大統領は21日(日本時間)、北朝鮮をテロ支援国家に再指定すると明らかにした。2008年に指定解除して以来9年ぶり。

米国は1988年1月に北朝鮮をテロ支援国家に指定したが、2008年10月に解除した。

複数のメディアによると、トランプ氏は記者会見で、「北朝鮮は他国での暗殺を含む国際的なテロ行為を繰り返し支援してきた」と述べた。

暗殺とは、今年2月マレーシアで金正恩党委員長の異母兄である金正男(キム・ジョンナム)氏が猛毒の神経剤であるVXによって殺害された事件を指すと見られる。

北朝鮮と米国は核・ミサイル問題や、トランプ氏と金正恩氏が互いに名指しで非難するなど、これまで以上に対立を深めている。今回、テロ支援国家に再指定されたことに北朝鮮が猛反発することは必至だ。

【解説】金正男氏殺害事件を振り返る

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金正男氏の殺害事件が発生したのは、2017年2月13日のことである。「見知らぬ女2人に顔に何かを塗られた」。クアラルンプール国際空港の出発フロアで突然、顔に液体を塗られた金正男氏は、同じ階にある案内カウンターに助けを求めた。

通報で駆け付けた警察官に伴われてクリニックに向かうが、監視カメラに残された金正男氏の足取りはおぼつかない。同年10月2日に行われた初公判では、金正男氏に付き添った警察官、ズルカルナイン(31)氏がこのときの様子を証言した。それによると、金正男氏は「ゆっくり歩いてください。目がかすんで見えないんです」と訴え、2人は2階下のクリニックまで3~5分かかったという。

「キム・チョル」名義の旅券

そして、金正男氏はクリニックで診療を受けるが容態が悪化。別の病院に搬送中に死亡した。ちなみに、金正男氏がこのとき所持していたパスポートは朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)のもので、「キム・チョル」という外交官の名義になっていた。

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北朝鮮政府は現在も、この人物はあくまで「キム・チョル」であるとして、金正男氏であることを認めていない。しかし、この事件で死亡した男性が金正男氏であることは、マレーシアの警察当局によって確認されている。

金正男氏が殺害された理由

金正男氏を殺害した実行犯は、ベトナムとインドネシア国籍の女性2人だ。しかし彼女らの証言や、北朝鮮の外交官らが映った空港の監視カメラ映像、マレーシア当局が集めたその他の証拠から、背後に北朝鮮当局がいたことは間違いない。

ではなぜ、北朝鮮は金正男氏を殺害したのか。

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韓国政府などは、脱北者による北朝鮮亡命政府の構想が浮上し、その指導者として金正男氏の名前が取り沙汰されたことを挙げる。こうした動きは金正恩氏を刺激したかもしれないが、殺害の直接の動機としては、違和感を覚えざるをえない。

韓国入りした脱北者は3万人を超えているものの、脱北者団体は乱立状態であり、まったく一枚岩ではない。また、金正男氏がかつて良好な関係を築き、金正恩氏に次ぐ権力をもっていたと言われる叔父の張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長は2013年に処刑されている。彼以外にも多くの幹部が処刑された。

まるで「公開処刑」

そのような状況からも、海外暮らしの長い金正男氏が、北朝鮮国内に大きな影響を及ぼす余地はなくなっていたのだ。何よりも、金正男氏本人が3代世襲に疑問を呈す発言をしていた。そんな人物がリーダーになったら、亡命政権の大義名分さえ疑われかねない。

また、米韓や周辺国が仮に金正男氏の亡命を受け入れることがあったとしても、亡命政権などを樹立されたら、北朝鮮との対話がいっそう難しくなってしまう。そうなったら、金正男氏は厄介なお荷物でしかなくなってしまっただろう。

金正男氏が殺害された理由を探る上で重要なのが、国際空港という衆人環視の下、目立つような形で決行されたという事実だ。これは、まるで「公開処刑」である。もしかしたら北朝鮮の金正恩党委員長は、金正男氏が殺される場面を多くの人に見せつけたかったのではなかろうか。

母親は日本からの帰国者

朝鮮労働党の幹部や、朝鮮人民軍のトップでさえ、見せしめとして公開処刑にしてきた金正恩氏が考えそうなことである。そしてそこには、金正恩氏の異母兄に対する積もり積もった歪んだ憎悪が感じ取れる。

金正恩氏は、後継者として公式登場した直後から建国の父であり祖父である故金日成主席を模倣してきた。北朝鮮で依然として人気の高い祖父の威光にあやかろうとしたのだ。ここで興味深いエピソードがある。金正恩氏が目指すべき人物である金日成氏が、もっとも可愛がったのは初孫である金正男氏だったのだ。金日成氏は金正男氏を目に入れても痛くないほど可愛がった。

しかし、金日成氏は金正恩氏と会おうとすらしなかったと言われている。理由は、実母の高ヨンヒ氏の出身成分(身分)にあった。高ヨンヒ氏は1960年代に日本の大阪から帰国した元在日朝鮮人であり、他の多くの帰国者と同じく出身成分で最下層に分類された。それゆえに金日成氏は、高ヨンヒ氏と彼女から産まれた孫らの存在を好ましく思っていなかったという。

(参考記事:金正恩氏を悩ます「大阪の血脈」と「最愛の妹」の危機

自分が模倣すべき祖父・金日成氏が最も愛したのは、母親違いの兄である金正男氏だった。そして自分は、帰国者の子として忌み嫌われ見向きもされなかった。そのようなコンプレックスを抱えた金正恩氏が、金正男氏をこの世から目に見える形で消し去りたいという歪んだ感情を抱いたとしても決しておかしくはないのだ。

金正男氏の遺体はどうなったのか

ところで、金正男氏の遺体は北朝鮮とマレーシアの神経戦の末、結局は北朝鮮政府の手に渡ったのだが、その後については情報がない。

これについては、北朝鮮は遺体を「静かに処理しただろう」と見る向きが大勢だ。

金正男氏殺害の背後にいる北朝鮮当局は、証拠隠滅を図らなければならないし、それに北朝鮮当局は今まで、金正男氏の存在を国民に隠してきた。彼の存在は金正日氏の女性遍歴につながるものでもあり、北朝鮮当局はどうしても国民に明かせないのだ。

(参考記事:「喜び組」を暴露され激怒 「身内殺し」に手を染めた北朝鮮の独裁者

北朝鮮政府の高位幹部をつとめた脱北者はデイリーNKの取材に対し、「北朝鮮が金正男氏の遺体の引き渡しを要求したのは、証拠隠滅のためでもあるが、国際社会の『人権攻勢』を気にし、死者を丁重に扱う姿勢を見せるためだろう」と述べた。

「八つ裂き」との見方も

また「金正日氏の長男として世界的に知られている人物の遺体を海外に置き去りにするのは、はばかられる」という理由も指摘した。金正日氏の息子の遺体をぞんざいには扱えないということだ。

それでも、北朝鮮当局は彼の存在自体を徹底的に隠蔽するはずだという。

「北朝鮮は、金正男氏の遺体を誰も知らないところに葬り、墓石には名前も刻まないだろう」(前出の脱北者)

一方、北朝鮮が金正男氏の遺体に対して、現代社会では決して容認されないような行為を行うかもしれないとの見方を示す人もいる。

かつて北朝鮮に共鳴して韓国で左翼運動を行い、その後、北朝鮮批判に転じて保守政党の国会議員となった河泰慶(ハ・テギョン)氏は、国会の緊急最高委員会で「北朝鮮が金正男氏の遺体引き渡しを要求しているのは『剖棺斬屍』を行うため」だとの見方を示した。「剖棺斬屍」とは、一度埋葬した遺体を掘り起こし、八つ裂きにするなど遺体を損壊する、中世に行われていた極刑中の極刑だ。

金正男氏が海外メディアとのインタビューで、北朝鮮の3代世襲と金正恩氏の統治能力を公然と批判したり、金正恩氏から下された帰国命令に応じなかったりしたため、「極刑」に処す可能性があるということだ。

北朝鮮では1990年代後半に万単位の人々が処刑されたり追放されたりした大粛清「深化組事件」で、農業委員会のキム・マングム委員長が反党・反革命分子のレッテルを貼られ、剖棺斬屍にされたとも伝えられている。

(関連記事:血の粛清「深化組事件」の真実を語る

また、正恩氏が政権の座についてから、処刑方法は徐々に残忍さを増しているという指摘もなされている。

(参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」…残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認

河氏の指摘は現状、何ら根拠のないものだ。ただ、正恩氏がこれまでやってきたことが、人々にそのような想像をさせてしまうのも事実なのだ。