今月15日の太陽節(金日成主席の生誕記念日)に、北朝鮮の首都・平壌では大規模な軍事パレードが行われた。しかし、金正恩党委員長の周りを固めたのは北朝鮮の幹部ばかりで、外国の代表団の姿は見えなかった。

前回、2015年10月の朝鮮労働党創建70周年に際して行われた軍事パレードに、中国序列5位の劉雲山政治局常務委員が参加したのとは対照的に見える。

もっとも、建国記念日や党創建記念日とは異なり、太陽節はもともと「内輪のお祝い」としての性格が強い。それでも、核・ミサイル開発を巡る情勢の緊張もあり、北朝鮮の人々は軍事パレードの様子から自国の置かれた状況を読み取り不安にかられているようだ。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、人々が軍事パレードの中継で注目していたのは、どんな兵器が登場するかではなく、外国の代表団がいるかどうかだった。しかし他の国はもちろんのこと、中国の代表団すらいなかったことに衝撃を受けた人が多いという。「中国と良好な関係を保っているならば、誰か来てもいいはずだ」と考えたわけだ。

中国は北朝鮮に政府に協力して脱北者を強制送還し、金正恩体制の人権侵害に間接的に手を貸している。

それでも一般の北朝鮮国民にとっては、旅行者や輸入品などを通じて唯一、身近に感じられる国と言える。

とくに国境を流れる鴨緑江をはさんで中国と向かい合っている両江道には、中国と頻繁に行き来している「私事旅行者」(親戚訪問名目の旅行者)や華僑が多く、海外からの情報が当たり前のように入ってくる。つまり、それほど自国の置かれた状況について把握している人が多いということだ。

そんな現地の人々の間では、こんな話が交わされているという。

「情勢がこれほど緊張しているのに、軍事パレードで武器を見せびらかしている」
「これから暮らしがもっと苦しくなるだろう」
「わが国を助けてくれる国はもはや皆無だ」

情報筋によると、地元の人々は半信半疑ながらも「中国だけは北朝鮮を見捨てないだろう」という期待を持っていた。政治的、地政学的な条件を考えると、北朝鮮を見捨てる訳にはいかないということだ。

しかし、中朝両国は国境地域での警備と取り締まりを強化している。それにより、かつてなかったほどに密輸も携帯電話の通話も困難な状況が続いている。密輸される商品が激減したことで、市場には以前のような活気が見られないという。

現地の人々は「中国とのさらなる関係悪化は、さらなる国境警備の強化につながる。それにより、地域経済を支えている合法、非合法の輸出入が難しくなり、暮らし向きがさらに悪くなるだろう」と考えているという。

影響は国境地域だけにとどまらない。市場で売られている商品の8〜9割が中国製である現状を考えると、中国から密輸される製品が激減することは、北朝鮮全域の経済に悪影響を及ぼす。

情報筋は「中国は北朝鮮に背を向けるかもしれない。そうなれば一巻の終わりだ」とまで語っている。

高英起(コウ・ヨンギ)

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1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記