9歳の少女は倒れた家族を養うため、毎日十数キロを歩き食べ物を盗んだ…北朝鮮収容所の現実

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デイリーNKジャパン編集部は3月、北朝鮮の政治犯収容所(18号管理所)で22年に及ぶ時を過ごした末、韓国へと脱出した女性、パク・クモクさん(30)のインタビューを行った。その内容を紹介する。今回は3回目。

2009年9月、18号管理所を脱出したパクさんはブローカーの手引きで中国に渡り、現地での生活を経て2013年に韓国に入国する。脱北者定着の支援施設・ハナ院で教育を受けた後、ソウル郊外で生活を始めた。

幸い、知人の紹介で現在の夫に出会い、二人の子宝にも恵まれた。しかし、韓国で暮らしながらも18号収容所で体験しことを思い出さない日は無いという。

「子供たちにご飯を食べさせていると、収容所で栄養失調で死んでしまった4歳と1歳の妹を思い出して涙が出ます。葬儀もできず、父が山に埋めました。9歳の時に父を亡くしてからは、病身の家族を養うため、往復で十数キロの酒工場まで毎日、一人で搾りかすを盗みに行ったことも忘れられません。当時、山に行っては何かトウモロコシと交換できる山菜や薬草を探していたのですが、木の根の下を掘り起こすたびに『ここに妹たちが眠っているかもしれない』と思ったことなどを事あるごとに思いだします」

2009年に生き別れとなった母のことも心配だ。

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「ソウルの街並みを、一度でもいいから母と歩いてみたいですね」

韓国に来てからも、母の消息を探ろうと北朝鮮内部にルートを持つブローカーらに大金を払ったが、今も音信不通のままだ。

そんな中、ケーブルテレビ局・チャンネルAの番組「いま会いに行きます」から出演依頼があった。北朝鮮出身の女性たちが自身の体験をもとに、北朝鮮内部の生活を赤裸々に語る人気番組だ。

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パクさんは悩んだ。北朝鮮に家族が残っているのに、テレビで顔をさらしても大丈夫だろうか。しかし結局、忘れられない収容所の実態が出演を後押しした。

「『移住民』と『解除民』が完全に隔離され、私が収容所を離れた頃には、それ以前にも増して殺伐とした雰囲気になっていました。『移住民』の住む村は電気鉄条網で覆われ、大同江の対岸にある14号管理所と共に、一度入ったら生きて出られない場所になっていました。今この瞬間にも子供たちは殴られ、働かされているでしょう」

パクさんは韓国で結婚し、子育てを行う中で韓国社会を理解し始めると同時に、北朝鮮社会にはびこる人権侵害のひどさを再確認した。

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「嘘や大げさなことは言わない。本名と顔を明かして証言する」。出演を決めた際に自らに課したルールだ。

パクさんは「私のことを知っている人(脱北者)が見てくれるかもしれないですし、今後、新たに18号管理所から出てきた人から後ろ指をさされることはしたくないですから」と毅然と語るのだった。

3月13日には、韓国のNGOと共にスイスのジュネーブを訪れ、国連人権委員会の平行行事で18号管理所の実態に関する証言を行った。北朝鮮当局はすぐに、プロパガンダサイトの「わが民族同士」に反論を掲載するなど神経質な反応を見せた。

パクさんは言う。

「私の証言を様々な国の人たちが、まるで自分のことのように熱心に聞いてくれた。証言が終わると私のところへ来て『よく頑張った』と慰めてくれた人もいた。人の温かさに触れたとてもいい時間でした」

パクさんは4月下旬には、ドイツで開かれる国際人権会議で証言するために再び海を渡る。「いつか日本でも証言できればいいです」(パクさん)。

18号収容所に送られた13人の一族のうち、たったひとりで韓国にたどり着いたパクさんだが、その存在は、北朝鮮の金正恩体制を悩ませるものとなっている。

見てきたように、外部世界と隔絶した北朝鮮の収容所では、悲惨な人権侵害が今も行われている。体制に批判的な人物を裁判もないまま収監し、死ぬまで働かせ搾取する。北朝鮮の金氏独裁社会を支える根幹的なシステムの一つだ。

人権侵害の象徴として国際社会からの批判も強いが、まだ十分ではない。この問題は北朝鮮の核兵器開発と並び、国際社会における主要なテーマとなるべきだというのが、デイリーNKジャパンの主張である。(了)

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記