「子供の歌のほめ方が悪い」で拷問・処刑…北朝鮮「秘密警察」粛清の舞台裏

北朝鮮の金正恩党委員長は今年1月中旬までに、国家保衛相(秘密警察のトップ)を務めていた金元弘(キム・ウォノン)氏を解任、複数の幹部を処刑した。中央党(朝鮮労働党の中央)はその後も各地方に検閲(監査)団を派遣し、保衛省に対し粛清人事の大鉈を振るっている。中でも両江道での検閲は熾烈を極め、幹部たちは震え上がっているという。

両江道のデイリーNK内部情報筋によると、現地に派遣された中央党の検閲団は、毎日のように幹部を呼び出し、厳しい取り調べを行っている。道の勤労団体部長事件に関連し、ウソの陳述を行った幹部も取り調べを受けている。

金元弘氏の解任の発端となった勤労団体部長事件とは次のようなものだ。

昨年11月末、金正恩氏が道内の三池淵(サムジヨン)郡の学生少年宮殿で訪問した際、歌を歌った子どもを褒め称えた。その褒め言葉の意図を、道の勤労団体部長だったチャン・ミョンホ氏が歪曲したとの密告が保衛省(秘密警察)のもとに届いた。

チャン部長はまた「大紅湍(テホンダン)は住みよいところです」という故金正日総書記の言葉が刻まれた石碑の前で、「どこが住みよいんだ」などと言ったと密告された。

保衛省は、チャン部長を拷問にかけるなどして厳しい取り調べを行った末に、銃殺刑に処したというものだ。

その後、「事件の真相を解明してほしい」と訴える手紙を受け取った金正恩氏は、保衛省に対して調査を行えと指示した。しかし、金元弘氏は金正恩氏の指示を適当に聞き流し、部下に調査を丸投げした。現地の人々の声に耳を傾けようとせず、同じ内容の報告を3回も金正恩氏に行ったという

激怒した金正恩氏は、金元弘氏を解任し、自宅軟禁状態に置いた。そして、両江道に検閲団を派遣。その結果、密告がウソだったことが明らかになった。

今回の検閲では幹部7人が既に解任されており、最終的には解任される幹部は数十人に達するだろうと現地では噂されている。金正恩氏の直接の指示に基づいた検閲だけあって、解任された幹部は重罰を免れないだろう。

今回の事件は、チャン部長の出世ぶりを妬んだ幹部が、彼をポストから引きずり落とした上で、「不純分子を摘発した」ことで点数稼ぎをしようとしたものだ。その背景には、北朝鮮に蔓延している幹部たちの行き過ぎた忠誠競争がある。

現地では一般住民にも事件のことが伝わり、「老いぼれ幹部が元帥様(金正恩氏)の指示に逆らった」「お上(金正恩氏)が人をよく捕まえる(殺す)もんだから、部下もそれを見習ったのではないか」などと鼻で笑っているという。

高英起(コウ・ヨンギ)

>>連載「高英起の無慈悲な編集長日誌」一覧

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記