年始の「余計なひと言」で国民から恨まれる金正恩氏

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北朝鮮の国民が、今年も「過酷なお正月」を過ごしている。

この時期、北朝鮮国民に強いられる最大の試練は、肥料を作るための「堆肥戦闘」、つまり「人糞集め」だ。1人あたり驚くほどの量をノルマとして課せられており、正月早々、人糞を求めてさまよい歩かなければならない。

女子大生を拷問

仮に何らかの方法で「人糞集め」から逃れたとしても、町の清掃などに無理矢理駆り出される正月の動員はまるで、終わらない「罰ゲーム」のようだ。

また1月は、金正恩党委員長が年頭に発表する「新年の辞」の集中学習期間だ。学校や職場で、9000字もある「新年の辞」を丸暗記させられるのだ。全文をそらんじる大会や「新年の辞」を題材としたクイズ大会などの準備もあり、仕事も勉強も完全にストップしてしまう。

そうした大会で優秀な成績を収めた人は、「模範」として大々的に持ち上げられる。一方、成績が悪ければ、今後の1年間を通じ、日々の「生活総和」(総括)の時間に責め立てられる。なかには、「ちゃんと学習しろ」と言われ「居残り」をさせられる人すらいる。

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今年はこうした例年の「苦行」に加え、全国民が厳しい「自己批判」を強いられる事態となっている。というのも、正恩氏が「新年の辞」で、「いつも気持ちだけで、能力が追いつかないもどかしさと自責の念に駆られながら昨年を送りました」などと述べ、北朝鮮の独裁者としては異例の自己批判をしたために、国民にしわ寄せが来ているのだ。

咸鏡北道に住むデイリーNK内部情報筋が語る。

「最近、『国中が新年の辞の学習熱風で沸き返るようにしよう』というスローガンとともに、政治学習を強化しろとの指示が中央から伝えられた。政治学習では各自が、昨年1年間の自分のダメだった部分を列挙し、『私が至らなかったために、元帥様(正恩氏)に心配をおかけしてしまった』という具合に自己批判しなければならない。さらには参加者同士の相互批判も強要され、学習というよりも完全に思想闘争の場となっている」

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しかし言うまでもなく、正恩氏の自己批判は「反省したフリ」に過ぎない。海外のドラマや映画を見ただけの女子大生を拷問したり殺したりする独裁者の口から、本気の自己批判など出てくるはずがないのだ。

そのくらいのことは当然、北朝鮮国民も見透かしている。前出の情報筋によれば「皆が口々に、『新年の辞と聞くだけで虫唾が走る』と言っている」という。心のこもらぬ独裁者の反省の弁は「余計なひと言」を通り越し、国民の災厄となっているようだ。

北朝鮮国民はもともと、表面的には正恩氏の恐怖政治を恐れながらも、陰では独特のブラック・ユーモアを発動して無慈悲にけなしている。

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それにしても、「口は災いのもと」という言葉があるが、殊勝な反省の弁を述べただけで人に迷惑をかけたり、人から嫌われたりする国家指導者というのも、なかなか珍しい存在ではなかろうか。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記