金正恩氏「拷問部隊」が繰り返すカネ目当ての悪行

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北朝鮮の秘密警察である国家安全保衛部(現国家保衛省)の地方組織の悪行ぶりがまた明らかになった。秘密警察が脱北者の家族を持つある一家に濡れ衣を着せて拷問まで行ったと、両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えてきた。

拷問で顔面を串刺しも

秘密警察は、金正恩独裁政権を陰で支える要の機関だ。国民の一挙手一投足を監視し、強制収容所も運営する。建前はあくまでも反体制的な動きの取り締まりや治安維持。その一方で、北朝鮮自体が貧乏国家であるがために予算は少なく、逆に国家に上納金を納めなければならない。

そこで秘密警察は、彼らの持つ独自の権力と暴力を活用して北朝鮮の富裕層や庶民から収奪する。こうした構図が続けば収奪、すなわち金儲けが目的化するケースも少なくない。その過程では、筆舌に尽くしがたい拷問が行われていることを平壌の秘密警察の本部に務めた経験を持つ脱北者が証言している。

今回、秘密警察の餌食となったのは、韓国に定着した脱北者がいる一家だ。普段から秘密警察の監視と尾行に悩まされていたが、最近になって連行されてしまった。取り調べで担当の保衛員(秘密警察官)は「仕事も商売もしていないのに、なんでそんなに金を持っているのか」「韓国の国家情報院からカネを受け取って何かしているだろう」と追及し、様々な拷問を行なった。

女子大生を拷問

結局、「情報を外部に漏らした」という虚偽の陳述をさせられ、「南朝鮮とグルになって反共和国(北朝鮮)策動に加担する不純分子」との濡れ衣を着せられた一家は、労働教化刑(懲役)1年の刑を受けた。「この世の地獄」と称される政治犯収容所に送られることは免れたものの、この先の一家の未来は限りなく暗い。

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今回のケースは、秘密警察の計画的な「謀略」だ。この一家が韓国の脱北者から送金を受け取っていることを知った秘密警察は、その財産を奪うために、この一家を罠に嵌めたのだ。担当者は一家にカネのありかを執拗に問いただした。しかし、なかなか話そうとしないので、拷問を加えて庭に埋めてあることを自白させた。そして、6万元(約100万8000円)を奪った。

まんまとカネを手に入れた担当者はその後、調書に書き込まれていた「内部情報漏洩」という容疑と6万元という金額を削除した。そしてこう持ちかけたのだ。「このままだと金額が多くて罪が重くなるから、額を減らして助けてやろう」と。新たに書き込まれた金額は6000元(約10万円)。担当者は残りの5万4000元(約90万8000円)をネコババしたものと思われる。

これ以外にも、昨年初めには咸鏡北道(ハムギョンブクト)茂山(ムサン)郡に住む女性が秘密警察に逮捕され、拷問を加えられ財産を奪われた。女性の叔母は、秘密警察に殺されたという。

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また、収奪ではなくても秘密警察は拷問を厭わない。昨年4月には韓流ドラマの動画ファイルを保有していた容疑で女子大生を拘束し、過酷な拷問を加えた。彼女は拷問の厳しさに耐えきれず、さらに拘禁施設に送られることに絶望し、自ら悲劇的な結末を選択した。

これまで、保安局(警察)や軍の国境警備隊は、密輸や庶民の非合法な商売に目をつぶる代わりにワイロを要求してきた。良くも悪くも共存共栄を図ってきたわけだ。しかし、権力を強化している秘密警察が乗り込んできたことでそのバランスが崩れ、今回のようなカネ目当ての悪行が横行しているのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記