「忠臣」も簡単に処刑…金正恩氏は「盗み聞き」の悪癖で身を亡ぼす

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どんなに親しい関係を築いた相手であっても、言うべきでない言葉というものがある。同様に、その人が自分のいないところで、自分に対して何を言ったか、知るべきでない言葉もある。

人間には感情があるから、理性とは別のところから言葉を発することが少なくない。人間はまた、反省したり後悔したりすることを知っているから、一度抱いた思いについて「私が間違っていたのではないか」と悔い改めることもある。だから、相手がどこで何を言っているかをあまり気にせず、大局的な付き合い方をした方が利益を生むことも多い。とくに、多くの人材の上に立つ国家指導者ともなればなおのことだ。

「喜び組」の役割

北朝鮮の金正恩党委員長はどうやら、こうしたことがまったくわかっていないらしい。 韓国に亡命したテ・ヨンホ元駐英北朝鮮公使は先月、韓国の与野党幹部との懇談会で、次のように説明した。

北朝鮮では地位が上がるほど、監視が強まり自宅内の盗聴が日常化されている。玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)元人民武力部長(韓国の国防部長官に相当)が処刑されたのも、自宅での失言が原因だった――。

さらにこれに続き、テ氏は今月8日に行われた韓国の聯合ニュースとのインタビューで、2012年7月に粛清された李英鎬(リ・ヨンホ)元朝鮮人民軍総参謀長もまた、「盗聴に引っかかり、死んだ」との認識を明かしている。

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テ氏によれは、「金正恩は執権当初、よく改革開放をやろうと言っていた」とのことだが、李氏はこれについて、「将軍様(故金正日総書記)が、改革開放をすれば国が豊かになるということも知らないで、やらなかったと思うのか」と漏らしたという。改革開放は北朝鮮の体制にとって大きなリスクを伴う、という意味だろう。

突っ走りがちな若い指導者をいさめる言葉だが、強烈な批判ではない。むしろ、体制の行く先を案じているという意味で、正恩氏にとっては「忠臣」と言える。正恩氏はそんな人物を、簡単に殺してしまったというのだ。

正恩氏の父親の正日氏も残忍な独裁者ではあったが、「喜び組パーティー」ひとつとってみても、幹部たちに本音をぶつけ合わせる政策調整の機能を持たせていたとも言われる。もちろん、主な目的は権力者たちの「お楽しみ」だったのかもしれないが……。

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それと比べても、正恩氏は器が小さすぎるのではないか。

もっとも、テ氏は「裏付けの取れた事実ではない」と言っているし、李氏粛清の背景については諸説ある。処刑されたかどうかもわかっていない。ただ、北朝鮮エリート層の内部にいたテ氏の経歴と、玄氏処刑のケースを考え合わせれば、がい然性は小さくないのではないだろうか。

このような恐怖政治は、人を縮み上がらせ、言うことを聞かせる上では有効だろう。しかし、自由にものが言えない環境で、人材はその能力を発揮することはできない。

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正恩氏の恐怖政治は結局のところ、彼自身の破滅を早めることになりかねないのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記