「血の粛清」の前ぶれか…金正恩氏が党と軍の幹部たちに警告

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北朝鮮の金正恩党委員長が党や軍の高級幹部に対し、「派閥を作るな」との警告を発したと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

両江道(リャンガンド)に住む情報筋がRFAに語ったところによると、今月9日の午後2時から、朝鮮労働党の両江道委員会の会議室で、幹部講演会が開催された。通常、中央からの指示は、宣伝扇動部研究室副部長が伝えるが、この日に限って、道党トップのリ・サンウォン委員長が直々に伝えた。これは非常に異例なことだ。

同窓会も粛清

指示の内容は、次のようなものだった。

「地方の労働党、司法機関の幹部の間で現れつつある『派閥文化』に対して、断固として対処すべきだ。幹部は、強力な思想闘争でこれを克服すべきだ」 「派閥を作る者は、『党の唯一的領導体系』を拒む者だ」

このような指示の背景には、蔓延する腐敗は、地方の幹部が『小王国』を作り、派閥化させたことによるものだという見方がある。

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そもそも北朝鮮においては、派閥はおろか、同窓会のような集まりを持つことも難しいとされてきた。脱北者の話によると、本当に親しい同級生が集まって開くささやかな同窓会はあるが、クラスや学年全体が集まるような大規模なものは開催が難しいという。

なぜなら、そのような会合を開催すれば必ず国家安全保衛部(秘密警察)のスパイが紛れ込み、人々の話に聞き耳を立てるからだ。そこで、ほんの少しでも体制批判めいた言葉が出ようものなら、「宗派行為」(分派行為=反政府活動)と見なされ、政治犯収容所に送られかねない。

実際、1990年代には軍内の同窓会組織が「血の粛清」を受けたこともあった。

(参考記事:同窓会を襲った「血の粛清」…北朝鮮の「フルンゼ軍事大学留学組」事件

「腐りきった組織」

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しかし、権力のあるところには利権があり、利権のあるところには人が群がるもので、派閥的な人脈が形成されるのは、人間社会では避けられないことなのだろう。

慈江道(チャガンド)の情報筋も、同様の指示が軍総政治局を通じて道内の軍の指揮官に伝えられたと述べた。そして軍人たちは、今回の指示が大々的な粛清の前触れではないかと、恐怖に震えているという。

彼らは、金正恩氏が先月、両江道(リャンガンド)の三池淵(サムジヨン)郡を訪れた際に、黄炳瑞(ファン・ビョンソ)氏など軍関係者が同行しなかったことを挙げて、不安にかられているという。

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金正恩氏は、今回の指示で地方幹部を槍玉に挙げたが、軍部がそれに胸をなでおろしている間に、護衛司令部を使って抜き打ちで粛清を行うかもしれないというのが情報筋の見立てだ。

勘の鋭い軍幹部は、むしろ軍が名指しされなかったことを不安に思っているようだ。何故なら、「この世で朝鮮人民軍ほど腐りきった組織はないということを、自らもわかっているからだろう」と、前出の情報筋は語っている。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記