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北朝鮮の北東部、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の清津(チョンジン)では昨年10月、第1回清津秋季国際商品展覧会(見本市)が開かれた。

国営の朝鮮中央通信は、北朝鮮と中国の企業や団体が参加し、軽工業製品、食料日用品、医薬品などが出品され、関係者、清津市民、出品者、清津駐在中国、ロシアの両総領事、中国の関係者が参加したと報じている。

ところが、この催しに足を運んだ人の中から、保安署(警察署)に呼び出され取り調べを受ける人が続出したと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。一体、どういうことなのだろうか。

現地の情報筋によると、道党(朝鮮労働党咸鏡北道委員会)は、展示会の始まる1ヶ月前から道内の市、郡、区域の住民に対して見に来るように呼びかけた。すると、会場の清津競技場に人が押し寄せ、当初は出入り口を1ヶ所に絞っていたが、新たに2ヶ所を開放するほどの大賑わいとなった。

地域に住むトンジュ(金主、新興富裕層)など経済的に余裕のある人々、商売人などが外貨を持って会場を訪れ、様々な商品を大量購入した。つまり、市場で売る商品の仕入れをしたということだ。

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北朝鮮で富をを見せつけることは、危険な行為だ。権力者にタカられるくらいで済めばまだマシな方で、下手をすると命すら奪われる。そうならないようにトンジュは、「忠誠の資金」という上納金を納め、権力者との良好な関係を維持する。そもそも、手広く商売をしようとすれば、権力者の庇護は欠かせない。

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しかし、トンジュらは「道党が参加を呼びかけているのだから大丈夫だろう」と思い、安心して会場で外貨を使いまくった。自らの利益を確保すると同時に、展示会を盛り上げることは権力者の顔を立てることに繋がるという計算があったのだろう。

ところが、当局の態度が一変した。購入者の資金の出どころを探り始めたのだ。清津で大物として知られるトンジュ、党幹部の家族などが次々に保安署に呼び出され、取り調べを受けた。党幹部の家族まで対象になっていることは、地方政府ではなく中央からの指示があったことも考えられる。

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市民の間には動揺が広がり、「そもそも外貨タンス預金を奪い取るために展示会をやったのではないか」と訝しむ人もいるという。

別の情報筋も、展示会で大量に物を買った人が道保安局と保衛部(秘密警察)に呼び出されて取り調べを受けていると述べた上で、彼らの爆買いぶりを次のように説明した。

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「中には、国際商品展示会に出品された生活必需品や食品をコンテナごと購入する人もいれば、冷凍トラックに満載された中国製の冷凍餃子を全部買った人もいた」

清津には、北朝鮮の二大卸売市場の一つである水南(スナム)市場が存在し、国内各地や中国、ロシアから入荷した品物が、この市場を経て全国に運ばれていく。大量購入した人は、そういう卸売業を営む人たちだろう。

会場を訪れた清津市民の中には、中国製の電動マッサージ器や電動バイクなどを買おうとしていた人も多かったが、そういうものは出品されず、化粧品、衣類、生活必需品、食品がほとんどだったとのことだ。あまりの売れ方に「清津にあんなに金持ちが多いなんて知らなかった」と驚きの声が上がったという。

展示会は平壌や、経済特区のある羅先(ラソン)で開催されるものだったが、今回は初めての清津での開催とあって、市民の興奮が高まったが、大量購入者への調査が始まったことで、そんな雰囲気に水を差されたと情報筋は残念がった。

米朝間の協議が膠着状態に陥り、国際社会の制裁緩和が望めない状況で、外貨をかき集めるためにトンジュを及び寄せるための展示会ではなかったのか、との話が出る始末だ。

市場経済を嫌ってきた金正日総書記は、経済の主導権を国の手に取り戻すために市場やトンジュに対する弾圧策を行っていた。一方で金正恩党委員長は、市場やトンジュに対する統制をできる限りしない姿勢を取っていたが、最近になって一部で変化が察知されている。

一例を挙げると、大同江ビールの卸売業を営んでいた50代女性が、全財産を没収された上、平壌から追放された事件が起きた。当局の意図は不明だが、儲けたカネを取り上げるような事態が頻発すれば、トンジュの投資意欲を削ぎ、ただでさえ苦境に立たされている北朝鮮経済をさらに追い込む、自分の首を絞める愚策としか言えない。

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