ミサイル開発どころじゃない…北朝鮮「ドロボー軍隊」悲惨な内情

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一般的に社会問題のしわ寄せは、その国の最も弱い階層のところに行く。ところが、奇妙なことに北朝鮮では、強者であるはずの朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士が、そのしわ寄せに苦しめられている。彼らにとって喫緊の課題は、新型ミサイルの開発でもなければ、軍事訓練でもない。いかにして食べ物にありつくかということだ。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK情報筋は、朝鮮人民軍兵士によるこんな事件を伝えた。

事件が起きたのは今月7日のこと。朝鮮人民軍252旅団3大隊1中隊1小隊2分隊に所属する兵士が、金正淑(キムジョンスク)郡新上里(シンサンリ)にある農場の畑に忍び込み、トウモロコシを盗もうとしていた。

しかし、折しも多発するトウモロコシ泥棒に備え、警戒にあたっていた農場の警備員に取り押さえられ、あえなく御用となった。

連行された兵士はその窮状を訴えた。

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「部隊ではトウモロコシの皮を取らないままに粉にしたもの以外、食べ物をもらえない。それすらも決められた量が配給されず、腹が減って夜も眠れない」

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中隊の士官長は、民間人の家を訪ね歩き、こうしたトウモロコシ粉を食べるのに適したトウモロコシ飯と交換してもらうのだが、その比率は3対2なので、量が目減りしてしまう。ちなみに、トウモロコシ粉は酒の醸造に使われるという。

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ひもじい思いをしているのは、軍官(将校)とてさほど変わりないようだ。

「軍官の食事は、食事当番が毎日何としてでもコメを入手するが、副食用の味噌がなく民間人の家を訪ね歩いて借りている」

社会的地位が高い上に、豊富な配給を得られた軍官も、極めて厳しい生活を強いられているようだ。

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取り調べは、犯行の動機に及んだ。

「新兵訓練を終えて配属されたばかりの新人は、中隊で出される食事を食べるが、入隊から2〜3年もすれば、8割はもうこんなものは食べられないと言い、民間人の家で食べるようになるが、秋になるとその対価として、農場から盗んできたトウモロコシを渡す」

つまり、軍隊で出される食事ではひもじさに耐えきれないため、基地の近隣住民の家で「ツケ」で食事をさせてもらい、盗んだトウモロコシで精算するというものだ。

食糧事情がこの有様なのに、この兵士が所属している中隊では毎朝、金正恩党委員長のマルスム(お言葉)、主体(チュチェ)思想、先軍政治に関する学習をやらされているという。

「そのせいか、依然として社会主義の優越性などを語る兵士もいるが、裏ではカネ儲けのことをばかり考えている。朝鮮労働党への入党や大学入学への推薦を受けるには、ワイロを渡さなければならないからだ」

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なぜこんなに食べ物がないのか。食糧の供給源となっているのは非効率極まりない協同農場だが、輸送過程での横流しなどで目減りし、質も粗末なものに入れ替わってしまう。そんなものを食べていては栄養失調になりかねないので、子どもを軍隊に送り出した親は、子どもを餓死から救うために仕送りをするのだ。旧日本軍を彷彿とさせる、補給の軽視ぶりだ。

(参考記事:北朝鮮が中国からコメ大量輸入「兵士の餓死を防ぐため」

一方で、非常に優遇されていた炭鉱労働者の苦しい立場に立たされていると、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えてきた。

道内の順川(スンチョン)にある李寿福(リ・スボク)青年協同農場、江浦(カンポ)協同農場ですでに多くのトウモロコシ泥棒の被害が発生している。犯人は主に近隣の炭鉱で働く労働者やその家族たちで、農民が内部で手引するケースもあるという。

順川周辺は、炭鉱から産出される石炭の対中輸出のみならず、石炭を利用した軽工業が発達するなど、北朝鮮の中でもかなり裕福な町として知られていた。ところが、国連安全保障理事会での制裁決議で石炭の輸出ができなくなり、苦境に立たされるようになったのだ。

(参考記事:経済制裁に苦しむ北朝鮮「炭鉱の町」

トウモロコシが完全に熟すにはもう少し時間がかかるのだが、泥棒はそんなことは関係なく持ち去り、「秋の収穫の時期には何も残っていないだろう」(情報筋)という嘆きの声が聞かれるという。

ただ、食べ物を狙った泥棒は以前から頻発しているため、以前と比較して食糧事情が全国的に悪化したと断言することはできない。