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国連安全保障理事会は11日、北朝鮮の人権状況を討議する公開会合を開き、北朝鮮における人権侵害を非難する発言が各国から相次いだ。筆者がとくに注目したいのは、ゼイド人権高等弁務官が中国から強制送還された脱北者への拷問や暴行が横行している実態について報告したことだ。

ゼイド氏が批判した対象は北朝鮮である。しかし、脱北者を強制送還している中国に対しても、間接的に批判の矢が放たれたと見てよいだろう。韓国や米国などの人権団体からはすでに、この問題で中国政府に対する批判の声が上がっている。この流れがいっそう強まり、各国政府が中国政府を強く非難するならば、多くの脱北者が悲惨な運命を辿らずに済むかもしれない。

(参考記事:北朝鮮、脱北者拘禁施設の過酷な実態…「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も

国連などはこれまで、中国に対して脱北者の強制送還をやめるよう説得を続けてきた。中国は北朝鮮との間で結んだ犯罪人引渡に関する条約を強制送還の根拠としている。しかし中国は「難民の地位に関する条約」と「拷問禁止条約」に加入しており、それらの条約は、国内法に優先して難民の強制送還禁止を順守すべきことを定めているのだ。

だが、中国は頑として脱北者を難民として認めようとしない。先月にも、4歳の男児を含む脱北者10人が強制送還されたばかりだ。

また、脱北者の悲劇は強制送還される前の段階でも起きている。中国政府から何ら人権面での保護を受けられないために、中国において、脱北者は容易に犯罪の餌食になってしまうのである。

(参考記事:17歳で中国人男性に売られ…脱北女性「まだまだ幼い被害者が大勢いる」

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とくに脱北女性らは人身売買の被害に遭いやすく、売られた先で「アダルトビデオチャット」などのセックスワークを強要されている。

(参考記事:中国で「アダルトビデオチャット」を強いられる脱北女性たち

こうした問題の根が、北朝鮮の体制にあるのは言うまでもない。しかし、北朝鮮に変化を促し、人権侵害を止めさせるには途方もない時間と労力を要する。それよりは、中国に脱北者の強制送還を止めさせる方がよほど簡単だ。

今年に入り、国際社会でそうした問題意識が強まって来たのは歓迎すべきことだ。ただ残念ながら、日本ではあまり関心が持たれていない。日本の安全保障のためには北朝鮮に核兵器を放棄させることが必要であり、そのためには北朝鮮の民主化が必要だ。そしてその第一歩は、脱北者の人権を守ることから始まる。そのことを、より多くの日本人が理解してくれることを願っている。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記